前回、ジェームズ・W・ヤングの著書「アイデアのつくりかた」を
もとにアイデアの作られる5段階について述べました。今回は
「第3段階:問題の放棄」と「第4段階:アイデアの誕生」の2章に関連して
「アイデアが生まれてくる場所」を、あなたにご案内します。
アイデアがたくさんでる場所 ~馬上・枕上・厠上~
いかにして良いアイデアをつくっていくのか、
ということは古今東西、時代を問わず永遠のテーマのようです。
中国では、文章を考えるのに「三上(さんじょう)」と
呼ばれる場所がふさわしいとされてきました。
これはアイデアを考えることにも応用できそうです。
三上とは、
「馬上」
「枕上(ちんじょう)」
「厠上(しじょう)」
のことをいいます。
馬上とは、文字通り「馬に乗っている状態」のことで、
現代でいえば、電車やクルマ等の乗り物に乗っている時ということになるでしょう。
枕上とは、枕の上、つまり寝ている時で、
これには眠っている時、眠ってはいないけれど横になっている時、眠りに落ちかけた時
などがあてはまりそうです。
厠上の厠とは「かわや」、トイレのことで、用を足している時という意味です。
お風呂に入っている時や、シャワーを浴びている時も
トイレにいる時と近い無防備な状態ですから、
これも含めて考えていいかもしれません。
でも本当に三上はアイデアがうまれるのでしょうか。
アイデアが生まれた瞬間のエピソード
私の知る限りでも、多くのエピソードを聞きますのでご紹介してみましょう。
まずは、馬上。乗り物に乗っている時です。
作家の遠藤周作氏はアイデアを求めて、自宅近くを走る小田急線に乗る習慣があったそうです。
頭の中には小説やエッセイのことがいっぱいだったのでしょうが、
あえてそれを考えないようにして、
電車の揺れに身をまかせ、単調なレールの響きに耳を傾けていると、
突然、何かが降りてきたようにアイデアが生まれたと書かれています。
次は枕上。
古くは「ワルツ王」と呼ばれたヨハン・シュトラウスが就寝中に曲想がひらめき、
楽譜を用意する間も惜しくてシーツに音符を書き連ねた
という話を聞いたことがあります。
また、作家の小池真理子さんはある夜、
雷に打たれたように小説のプロットや時代背景、登場人物の設定などが一気にひらめき、
頭に浮かんだ事柄を必死に書き連ね、それをもとに一冊の長編小説を完成させました。
この作品が直木賞受賞作となった『恋』という小説です。
三つめは厠上。
トイレで着想という話は聞かないので、これは先に書いた、同じ裸になる(?)
ということからお風呂で考えてみると、
古代ギリシアの数学者・哲学者アルキメデスが
入浴中に浮力の原理によって王冠に使われていた金の純度を図ることを思いついたという逸話があります。
喜びのあまり「ユーリカ!(分かった!)」と叫びながら
何も身につけずに外へ飛び出したというのは有名なおはなしですね。
実在の人物ではありませんが、
ともちさんの漫画『愛をあげよう』では
主人公・谷口正午の義理の母で、小説家である安藤睦月が
アイデアに煮詰まるとお風呂に入る習慣があるという設定になっています。
さすがにトイレで思いつくというのは聞かないし、
あってもなかなか口にできないだろうなと思っていたところ、
先日テレビ番組でEvery Little Thingのギタリスト・伊藤一朗さんが
トイレで曲の着想が浮かぶことがあるという話をされていました。
やはり古人の知恵というのは真実なのですね。
自分に合ったアイデアが生まれる場所を見つけよう!
三上には、
基本的に一人でいられること
リラックスした状態であること
という共通点があります。
電車に乗るという遠藤周作さんも、周囲は赤の他人なので、ある意味一人ということですね。
こうしたことから考えてくると、
乗り物に乗ったり、横になったり、
トイレに入ったり、シャワーを浴びたり、
ということにこだわらず、
一人でいられる環境、リラックスできる状態をつくりだすことができれば
アイデアはうまれるのではないでしょうか?
たとえば、自分の部屋であれば、お香を焚く、アロマテラピーなどを試してみる。
瞑想をする。良い音楽を聴く。
朝の静けさを楽しむ、鳥のさえずりを聞く。
静かに降りそそぐ雨音のリズムを聞く。
近くに小さな川があれば、せせらぎに耳を傾ける。
神社や寺院に出かけてその境内に座ってみる。……。
必ずその人にあった場所や
シチュエーションがあるはずですから、それを見つける。
一度見つけたら繰り返してみる。
それがあなたにとって最適の場所であり方法なのですから、
きっとたくさんのアイデアのプレゼントをうけとることができるようになります。
ちなみにですが、私のアイデア・スポットはお風呂なのですが、
若い娘のいる我が家ではアルキメデスになるわけにはいかず、
上がるまで思いついたアイデアを必死に忘れないようにしています。